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【インタビュー】音楽との対話〜それぞれの視点から振り返る、あのコンサート〜 / 實川 風 / 尾関 友徳 / マツダ・イチロウ

2022.02.19

Interviewee

實川 風 / 尾関 友徳 / マツダ・イチロウ Jitsukawa Kaoru / Ozeki Tomonori / Matsuda Ichiro

實川風:ピアニスト

尾関友徳:ピアニスト・録音編集

マツダ・イチロウ:MUSIC&ART Support

實川さんが初めて掛川に訪れたのは2017年。強烈な印象を残した演奏会だった!?
Kako:2017年に實川さんとヴァイオリンの長尾春花さんの演奏会がきっかけで、マツダさんがMUSIC&ARTの企画に携わってくださるようになったと伺いましたが...

マツダ:そうですね。その時は聴衆として聴きに行きました。それがもう素晴らしくて。長尾さんと實川さんが楽器を通して対話しているという感じでした。

Kako:ほおお。

マツダ:バックハウスのベーゼンドルファー(注1)のピアノに實川さんが導かれてね、なんか、こんなピアノに出会ったことないっていう感じが受け取れました。

要するに、演奏家がホントに楽しんで、二人のデュオを楽しんでいるっていう感じが、我々聴衆にもどんどん伝わってきて、もう、ずっと聴いていられる。

實川:嬉しいですね。

マツダ:なんていうのかな、美しい時間を延々とこのまま居たいなっていう。おそらくそこにいた人みんなそうだったと思います。僕はそういう場面に出くわすために演奏会に行っているわけだけど、まさにその日は、それを体感しました。

Kako:わー、いいですね。

マツダ:終わった後に主催者の高橋さんに、このピアノってクラシックのピアニストしか演奏しないんですか?って。僕のよく知っている分野であるジャズの演奏家が弾いたらもっともっと面白いアプローチで面白いピアノの音の出方をするんじゃない?っていう話をしたんです。そしたら、ジャズのプレーヤー知らないから、マツダさん、知り合いが多いんであれば、ぜひ入ってよっていう流れで...

尾関:そうすると、例えば演奏者を紹介したりとか??

マツダ:そうだね。この会を一緒にやろうよってお誘いいただいたのがキッカケになって、今、こうして一緒に何十回ものコンサートをつくっている。

實川:そのきっかけとなったのが、僕の演奏会のときだったということですね!

マツダ:そうそう!!!


演奏家本人が振り返るあの演奏会
尾関:實川君はその時のことはよく覚えてるの?

實川:自分がどういう風に弾いたかっていうのは、具体的には思い出せないんだけども、ピアノがとにかく凄かったっていうのは、ずーっ印象に残っていて。

尾関:え、凄いっていうのはどういう感じなの?僕も少し弾かせてもらったから感じるけれども、凄いっていうのは?

實川:うーん。そうですね、言葉にするのは簡単ではないのだけれど...

尾関:音の伸び方とか?

實川:細かく言っていくと、いろいろあるのですが、ピアニストは自分の楽器が持ち運べないので、その会場に行って一期一会で楽器と仲良くなる必要があるんですよね。その楽器がどういう楽器で、一番いい音のツボがどこにあるかっていうのを知る時間がいつも必要なんだけど、バックハウスのあのピアノは、何て言うのかな...ポーンって1音出した音に含まれてる魅力が桁違い。一音だけで、聴いてる人の記憶や想い出に結びつくような、何か心を動かせるだけの歌心を持った音色が出るんです。
​​
Kako:じゃあ、その時の演奏会っていうのは、あのピアノだったからこそ、イチロウさんが感動した経験だったり、實川さんが演奏して、「あ、ちょっとノッてきた!楽しい!」っていう感覚だったりというのも、そのピアノだったからこそっていう感じなんですか?

實川:それはすごくあります!あのピアノが持っている音のパレットに触れることができたので、他のピアノを弾いた時にも、どうやったらあの音に近いカラーを出せるかな、って考えるようになりました。

マツダ:一つの指標みたいな感じなのかな。

實川:そうですね。「あ、あのいい音を自分は知ってしまった」となると、それをイメージして音作りしたくなるんですよねえ…

全員:なるほど...

マツダ:僕は、手帳にチケットを貼って記録しているんだけども当時の感想として『沸き立つ音色、深み』って書いてあって。

全員:ほー...

實川:メモしてあるんですね。
​​
マツダ:まさに、聴衆側に感じた。彼が弾いていることが響いてきたっていう。

實川:楽器に身を委ねて弾くと、今までその楽器を弾いてきた人のエネルギーや大事にされてきた楽器だなってことも分かるんです。自分が何か無理にアクションを起こさなくても響いてくれる。きっと素晴らしいピアニストがこの楽器を弾いて、楽器も育っていったんじゃないかなあ…全然気難しくなくて、ホントに懐の深い、あったかい音のする楽器だと思います。


クラシックって古いもの?なくなるもの? 演奏する側・企画する側に聞いてみた!
實川:クラシックが消えちゃうんじゃないか、人気無くなってくんじゃないかって思われちゃうんだけど、案外そんなことも無いんじゃないかな?って思うんです。日本人が神社などの場所に行って、「あ、ここの空気いいな」ってパワーを感じる感覚って、まぁそう簡単には無くならないじゃないですか?

Kako:うーん。そうですね。​​

實川:クラシックも、どこか時代を超えるそういうパワースポット的な要素があると思うんです。まずは演奏家がありがたみを大切にして、それを全力でお客さんに届ければ、聴かれなくなってしまう心配をしなくてもいいんじゃないかなとか思うくらい、パワーがあるものだと思う。

Kako:確かに...!

マツダ:實川さんの話から、ちょっと話を思い出したんだけど。私がクラシックを企画した時に同時開催であるアーティストの人の作品展も同時にやったんです。その方はクラシックを聴くのはそれが初めてだったようで、こういう機会がなかったら、私はクラシックを聴くことはないだろうと言っていたんです。演奏会後に、その人は、
 「クラシックは、私にとっては全く新しい。」
と言っていたのがとても記憶に残っていて。「100年前の曲であろうと、私は初めて聴いた曲だから、ものすごく新鮮でものすごく前衛でこんなに良かったんだ。」って仰っていました。

尾関:たぶん、その人の中で新しく生まれたんでしょうね。

實川:一周回って新しく思えたんですかね!

全員:笑笑笑



まだまだ楽しいお話は続いています。
【演奏会のお知らせ】

お話の中で登場したバックハウスのベーゼンドルファーを使用するコンサートが開催されております。

かねもティーカルチャーホール(静岡県掛川市掛川70)
「さようならバックハウスのベーゼンドルファー」
開場14:30  開演15:00  終演予定16:00
チケット:2,000円

お申込み・お問合せ MUSIC&ART Classic 高橋恭子 0537-21-1893

新型コロナウイルス感染症対策としてご来場者全員に抗原検査をしてからご入場していただくことにしております。詳しくは事務局までお問合せください。


注1:バックハウスのベーゼンドルファー
20世紀の巨匠 ヴェルヘルム・バックハウス(ピアニスト)が所有していたベーゼンドルファーModel290(1898年製)が2017年より静岡県掛川市にある茶の蔵かねもの2階にあるティーカルチャーホールに2022年4月まで設置してある。
Music&Art Classicではこのピアノを使用し、演奏会をしていた。
Interviewer:Kako